2026世界経済見通し—日本にとっての衝撃 (2026/10/26)
国際通貨基金(IMF/1)の世界経済見通し(WEO/2)はお馴染みの経済予測である。私も何度かこのブログでコメントを書いている。今年の予測は、日本にとって少々衝撃的であった。マスメディアでも騒がれたように、GDP/3のランク付けが来年には英国とインドに抜かれ第6位に下がるという(図1)。巷では、先進国の中で経済の落ち込みが続く日本の姿に、何やら自嘲的な声が上がるが、その姿は2023年にドイツに抜かれて第4位になった時の既視感でもある。
低い経済成長に異常な円安が輪をかけるGDPの伸び悩み
日本経済の今の状況を端的に言えば、先進国の中で相対的に低い成長率がもたらした結果(表1)ではあるが、何故これほど急速に落ち込んだのだろうか。そこには別の要因がある。それは異常な円安にある(図2)。
我々が目にするGDPの国際比較は名目値、かつドル換算される。パンデミック以降、円はドルに対して急速に価値を下げた。つまり円安の進行である。円建てで見れば日本経済は成長しているが、ドル建て換算した途端、DGPは減少し、マイナス成長したかの如くなる。それゆえに、日本、ドイツ、英国、そしてインドの4カ国のGDP経済成長を比較したグラフ(図1)を見ると、日本を除く各国は順調に右肩上がりで伸び続ける一方、日本だけ横ばい、年によっては右肩下がりになる。
GDPの推移を示したグラフ(図1)を見ると、英国とインドのGDPの伸び率(グラフの傾き)がほぼ同じになっている事が分かる。英国の成長率はパンデミックが治まり始めた2022年を除けばせいぜい年率1%台に留まる。一方、インドの成長率は年率7%を超える。それが名目かつドル建てのグラフにすると同じ伸び率になってしまう。何故だろう。これも為替の変動がもたらした結果である。英国ポンドは2022〜2027年の間で10%のポンド高となり、インドルピーは18%のルピー安となる(ただし、2026年と2027年は予測値)。あくまでもGDPは名目値であり、両国通貨の為替変動、そしてインフレを考慮しないと、実質で表記される成長率(表1)との間で一見矛盾と見える現象が起きる。名目、ドル建てでGDPを評価する際に気を付けるべき点だ。
国の順位より、1人あたりの付加価値生産がより重要
GDPで日本を抜いたドイツ、英国ともに人口で言えばおよそ6割/4にとどまるものの、その少ない人口で日本並み、あるいは日本を超えるGDPを達成する。1人あたりでどれだけの付加価値を産出したかを比べると、日本が抱えるより本質的な問題が浮き彫りになる。
G7/5と韓国を加えた8カ国の中で日本の1人あたりGDPはどん尻の8位、3万5400ドルに過ぎない。2026年(推計)で米国が9万5200ドルでトップ、第2位がドイツで6万5700ドル、7位の韓国も4万3500ドルと日本に1900ドルの差を付ける(表2)。
将来予測の2027年で見ると、米国は日本の2.7倍、ドイツは1.9倍、韓国は1.3倍の生産性を上げる。色々言い訳をしたところで、これが今の日本の実力である。
異常な円安と生活実感との乖離
米国のIT企業に入れば初任給でも年報10万ドル(1570万円/6)、能力さえあれば20万ドル(3140万円)を稼ぐと聞けば、日本の給与からは大きくかけ離れる。しかし、昼食でハンバーガーを食べれば20ドル(3140円)が飛んでも不思議ない。しかも、今やチップは20%が当たり前だ。つまり日本から見れば、給与は高いが生活費も高い。
今の為替レートは異常な円安である。同じ生活水準を前提に、例えば食費や住居費といった支
出で比較すると、円とドルの換算率はどのくらいで考えれば良いのだろうか、という疑問は当然湧いてくる。そこで登場するのが購買力平価(PPP/7)だ。WEOはPPPに換算したGDPや1人あたりGDPを出している。
先程の今年の1人あたりGDPをPPPで換算すると、為替レートを使った3万5400ドル(表2)が5万9700ドル(表3)になる。ちなみに市場の為替レートは159円(予測値)であるが、PPPは94円である。PPPは市場のレートの4割円高だ。生活実感で比較するならば悪くない数字であろう。ただし、PPPが通用するのは、日本で給与を貰い、日本で生活する限りの話である。日本で稼いだ給与で、ハワイ旅行に行ったらその前提は崩れ、物価の高さに目を剥くことになる。
IMFが使うPPPは、世界銀行が主導する国際比較プログラム(ICP/8)の計算結果である。これと似たような指標をエコノミスト誌が出している。マクドナルドのビッグマックの価格から円とドルを換算するビッグマック指数だ。2026年7月版の指数はUS$1=¥80になる/9。
国際貿易がPPPやビッグマック指数で決済できるわけではないが、生活実感で経済を見るならば一つの評価軸ではある。
日本が抱える問題
多くの人が今の日本経済の姿を嘆く一方、インフラは整い、保険制度も行き渡り、居心地の良い日本に満足する人もいる。しかし、その満足感はこれまでに蓄えた富に乗っかった上での話であり、努力もせずに経済が衰えてゆけば先行きは暗い。
他の先進国と比べて日本の低い経済成長率は明らかに問題である。もう一つは、異常な円安がドル換算のGDPを劣化させる。円安の原因は今の日米の金利差にあると言われてきたが、もはやそれだけではない。日本が抱えるGDPの2倍を超える財政赤字、これが財政と円に対する信頼を毀損し、円安を誘発する。
日本の生産性の向上、いつまでも国債発行に頼ろうとする赤字財政、これらは国に突きつけられた課題である。「唐様に売り家と書く三代目/10」という川柳があるが、子や孫の世代に日本経済がそうなっては洒落にもなるまい。
/1
International
Monetary Fund
/2
World
Economic Outlook
/3
Gross
Domestic Product、国内総生産
/4
日本 約1億2,305万人; ドイツ 約8,347万人; 英国
約6,948万人 (いずれも2025年基準)
/5
米国、ドイツ、フランス、英国、日本、イタリア、カナダ
/6
$1=¥157で換算。
/7
Purchasing
Power Parity
/8
International
Comparison Program
/9
ビッグマックの価格は日本が500円、米国は6.22ドル。
/10 江戸時代の川柳から生まれたことわざ。初代が苦労して築き上げた財産や家業も、3代目になると身を持ち崩して没落し、ついには家を売りに出すようになるという戒め。