東芝の事業破綻からキオクシアの事業再生へ (2026/7/5)
米国のプライベート・エクイティ(PE)ファンドであるベインキャピタルが東芝の事業破綻で分社化された東芝メモリーを買収したのは2018年、つまり8年前であった。翌年、キオクシアに商号を変更した。
日本ではいわゆる投資ファンドは禿げ鷹と揶揄され、良い印象はなかった。
しかし、PEファンドは投資家から集めたお金を使って、買収した企業に資金投入するだけでなく、役員を送り込んで事業そのものに関与し、企業価値を高める。彼らは最終的に当該企業を売却することでリターンを手にするが、その過程において企業が生み出す付加価値を高めることに最大限のエネルギーを費やす。そこには、金を出し、かつリスクも取るという明確な哲学がある。
キオクシアが2024年12月に上場したときの株価は1455円で、公募価格に届かなかった。しかし、僅か一年半ほどの間に株価は10万円を超え、時価総額でトヨタ自動車を追い越した。もちろん、ここに来るまでは平坦な道ではなかった。メモリー市場はパンデミックの巣籠もり特需が剥落した後、不況に陥り、キオクシアは2024年年度に2437億円の最終赤字を計上し、経営危機に遭遇した。
そんなキオクシアについて、今朝の日本経済新聞に、『「東芝傘下なら今のキオクシアはない」
ベイン日本代表・杉本勇次氏』と題した対談記事があった。
話の中で最も興味を引いたのは、「もし東芝が株を売却せずに、自らが経営していたら今のキオクシアはなかった」という部分である。2024年度末に、キオクシアは手元のキャッシュがなくなる寸前であったが、ベインは資金を融資した。キオクシアは巨額赤字を出しながらも年3000億~4000億円規模の設備投資だけは止めなかった。中長期的にメモリーが必ず伸びるという確信のもとに、継続的に研究開発と設備投資を続けた。
もし、東芝という複業企業体であればそれは無かった。赤字部門に巨額の投資を続けることに、他部門からの反発は極めて大きい。日本のサラリーマン経営者は社内の全体の調和を最重要視する。そこには強いトップダウンとオーナーシップのあるサムソンやSKのような財閥系の韓国企業とは大きな違いがある。
もうひとつベインらしい経営は、ストックオプションを持つ従業員や株主にも恩恵を行き渡らせ、投資ファンドの存在意義を示した点である。とりわけ従業員にとって努力する事への大きなインセンティブとなる。株価の高騰で社員600名ほどがビリオネアになったという。
ふと思えば、バブル崩壊後の失われた30年と呼ばれた日本経済の停滞はなぜ起きたのだろうか?世間は政治が悪いと言うが、私は一番の原因は企業経営者がリスクを取って事業を革新することを怠ったことにあると思っている。
事例は幾らでもある。かつてはDRAM(メモリー)で首位の座にあったNEC、その後日立製作所のメモリー部門と統合して設立したエルピーダ、リチウム電池を開発したものの電池の発火事故から事業を捨てたソニー、ソニー・東芝・日立製作所の中小型ディスプレー事業を統合して国策会社として発足したジャパンディスプレイなどなど、枚挙にいとまがない。事業は全て破綻した。
一方、エルピーダを買収した米国マイクロンは旧エルピーダの広島工場を最先端の生産拠点に変えた。車載用リチウム電池では中国のCATLとBYDがシェアの半分を超え、それに韓国のLG化学が続く。ディスプレー市場では、中国のBOEとAUO、韓国のサムソンディスプレーとLGディスプレーが市場を押さえる。
つまり、技術だけでは企業は成長しない。オーナーシップのない企業は市場で勝ち残れないということである。